運営:司法書士越智法務事務所〈茨城県つくば市〉
親から田や畑を相続したものの、「自分は農業をしていないので使い道がない」「売りたいけれど、農地は簡単には売れないと聞いた」「東京に住んでいて草刈りに通えない」といったお悩みを、つくば市や近隣の市町村の方から多くお聞きします。
茨城県は耕地面積が全国第3位の農業県です。つくば市でも、研究学園地区やつくばエクスプレス沿線の市街地を少し離れると、田畑が広がる地域がたくさんあります。そのため、農業を継がないお子さんが農地を相続するケースは決して珍しくありません。
この記事では、相続した農地について、相続登記から売却・贈与・貸付け・相続土地国庫帰属制度までの選択肢を、つくば・茨城ならではの事情も交えて解説します。
農地も相続登記の義務化の対象です
令和6年4月1日から相続登記が義務化されました。相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象となることがあります。
この義務は宅地や建物だけでなく、田や畑などの農地にも適用されます。
茨城県内では、祖父母やさらに前の世代の名義のまま残っている農地も少なくありません。名義を放置している間に相続が重なると相続人がどんどん増え、遺産分割協議に十数人の署名・実印が必要になることもあります。売却や貸付けを考える場合でも、まずは相続登記で名義を整理することがすべての出発点になります。
農地を相続したときの手続き
相続による取得には農地法の許可は不要
農地を売買や贈与で取得するには農地法の許可が必要ですが、相続による取得には許可は不要です。相続は本人の意思による取引ではなく、法律上当然に権利が移るものだからです。
そのため、相続人が農業をしていなくても、また東京など県外に住んでいても、農地を相続すること自体に問題はありません。
農業委員会への届出が必要です
相続で農地を取得した方は、相続登記とは別に、取得を知った時からおおむね10か月以内に、農地のある市町村の農業委員会へ届け出る必要があります(農地法第3条の3)。届出をしなかったり、虚偽の届出をしたりすると、10万円以下の過料の対象となることがあります。
つくば市内の農地であれば、つくば市農業委員会が窓口です。土浦市・つくばみらい市・常総市など近隣の市町村の農地は、それぞれの市町村の農業委員会に届け出ます。
なお、届出をしたからといって、農業を続けなければならないわけではありません。
遺産分割では「共有」を避けるのが基本
農地を兄弟姉妹などで共有にすると、売却や貸付けのたびに共有者全員の同意が必要になります。遠方に住む相続人がいると、連絡を取るだけでも大きな負担です。遺産分割協議の段階で、農地を引き継ぐ人を一人に決めておくことをおすすめします。
農地の売却・贈与には農地法の許可が必要
農地のまま売る・贈与する場合
農地を農地のまま売却したり贈与したりするには、原則として農地法第3条の許可が必要です。買主(もらう人)が農地をきちんと耕作できるかなどが審査されるため、宅地のように誰にでも自由に売れるわけではありません。
「子どもに無償であげるだけだから手続きは要らない」と考える方もいますが、親子間の贈与でも許可が必要です。許可がなければ名義変更(所有権移転登記)はできません。
宅地などに転用して売る場合
つくば市は、つくばエクスプレス沿線や研究学園地区などの「市街化区域」と、筑波山麓や旧町村部に広がる「市街化調整区域」とで、農地の扱いが大きく異なります。
市街化区域内の農地は、農業委員会への届出で宅地などに転用できるため、比較的売却しやすいといえます。一方、市街化調整区域内の農地は転用に許可が必要で、審査も厳格です。さらに、農業振興地域の農用地区域(いわゆる「青地」)に指定されている農地は、原則として転用できません。
相続した農地がどの区域にあるのかによって、取れる選択肢が大きく変わります。まずは市役所の都市計画や農政の窓口で確認しましょう。
売らずに「貸す」という選択肢(農地バンク)
茨城県の農地バンクは「茨城県農林振興公社」
自分で耕作する予定がなくても、農地を貸し出して活用してもらう方法があります。その中心となるのが、農地の貸し手と担い手の農家をつなぐ「農地中間管理機構(農地バンク)」です。茨城県では、公益社団法人茨城県農林振興公社が農地バンクに指定されています。
令和7年4月から、農地法による許可以外の方法で農地を貸し借りする場合は、原則として農地バンクを経由する仕組みに変わりました。これまで市町村の「利用権設定」で農地を貸していた場合、契約の更新や期間満了のときに手続きが変わることがあるため注意が必要です。
貸付けを考えている場合は、市町村の農政担当課や農業委員会、農地バンクに相談してみましょう。
農地を放置するリスク
茨城県では農業の担い手の高齢化が進み、基幹的農業従事者の平均年齢は67歳を超えています。担い手が減るほど、農地の借り手を見つけることも難しくなっていきます。
耕作しないまま放置すると、雑草の繁茂や害虫の発生、不法投棄などで近隣に迷惑をかけるおそれがあります。荒れてしまった農地は、貸すことも売ることも難しくなります。使う予定がない場合でも、早めに方向性を決めておくことが大切です。
相続土地国庫帰属制度は使える?
相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈で取得した土地を国に引き取ってもらう制度で、令和5年4月から始まりました。売却も貸付けも難しい農地の「最後の選択肢」として注目されています。
農地も対象になります
田や畑であっても、一定の要件を満たせば制度を利用できます。ただし、次のような土地は承認されません。
費用にも注意が必要です
申請には1筆あたり14,000円の審査手数料がかかり、承認されると負担金を納めます。負担金は原則として1筆20万円ですが、市街化区域内や農用地区域内の田・畑などは面積に応じて算定されるため、高額になることもあります。
茨城県内の土地の申請窓口は、水戸地方法務局(本局)です。費用や要件を考えると、売却や貸付けができる農地であれば、まずはそちらを検討するほうが現実的な場合もあります。
まとめ
農地を相続したら、まずは相続登記と農業委員会への届出を済ませ、権利関係を整理することが出発点です。
相続による取得に農地法の許可は不要ですが、売却や贈与には許可が必要です。つくば市では、農地が市街化区域にあるか、市街化調整区域や青地にあるかで、売却のしやすさが大きく変わります。売らずに農地バンクを通じて貸し出す方法や、相続土地国庫帰属制度を利用する方法もあります。
「相続した田畑の名義変更をしたい」「売るべきか貸すべきか分からない」といったお悩みは、早めにご相談いただくことで選択肢を整理しやすくなります。
司法書士越智法務事務所では、つくば市を中心に茨城県内の農地を含む相続登記・相続手続きのご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。
2026年10月9日
執筆:司法書士越智研介